4 選挙制度

 憲法が定めるのは直接選挙・秘密選挙等の選挙の基本原則にとどまり、具体的な選挙制度は法律で定めるものとされている。過去の選挙制度改革では議員側の視点が強かったという反省から、選挙制度についてルールを憲法に明記しておいた方がよいとの意見も出されている。

 選挙制度の設計は国会の構成に直接影響するものである。この点、

  • 国民主権の徹底という観点からは、国民各層の価値観の多様化の進展と相まり、多様な民意を反映した国会をつくることが今までに増して重要になっている、

などの意見があり、民意を的確に反映する選挙制度が強く求められている。

 選挙制度を設計する際には国民の視点等に留意すべきであるとして、

  • 複雑な選挙制度は国民を最終的には政治から遠ざけてしまう。シンプルな選挙制度を目指すべき。国民にとって分かりやすい選挙制度をつくることが政治不信や低投票率を解決するための最大の処方せんではないか、
  • 日本の選挙制度は議員側の視点が強く、国民の視点がなおざりにされていることを反省すべき。第三者機関的な選挙制度審議会のようなものをつくり、そこで議論を詰めた上で提案していく手順が必要。最終的には、選挙制度を国民のものとして意識してもらうという視点から、国民投票により決定してはどうか、
  • 比例代表制は、女性など新人の政治参加を容易にした点では意味がある。非拘束式では女性議員は減少する。男女共同参画社会基本法の趣旨に基づいて選挙制度も検討すべき、
  • 国会議員選挙は金のかからない仕組みに改めるべき、
  • 選挙に出て落ちても戻れるような選挙制度を導入すると、もっといろいろな人が出やすくなるのではないか、
  • 投票価値の平等については、2倍以内であることが憲法上の要請であり、制度をつくるときは1対1にできるだけ近付けるべき、

などの意見が出された。

 各選挙制度の長短については、

  • 小選挙区制度に関して憲法的に最も重要なことは、民意の反映という点から死票が余りに多いこと。死票が絶対得票の過半数を圧倒的に超える選挙結果は、民主主義の制度として極めてゆゆしい結果、
  • 小選挙区制度は死票が多く、今日の日本では女性が進出しにくい選挙制度で、有権者の意思を正確に反映すべく民主的な選挙制度に改めるべき、
  • 衆議院の小選挙区制度は、以前の中選挙区制度と比較すると、多様な民意の反映は犠牲にされており、民意の反映という意味ではかなりゆがめられた制度と言わざるを得ない、
  • 比例代表制は、女性など新人の政治参加を容易にした点では意味がある。非拘束式では女性議員は減少する、
  • 中選挙区制度は、定数が複数であり、投票者が国政に自らの意思を反映するチャンスが多い。中選挙区制度は、結果として比例代表制度と小選挙区制度のよい面を併せ持った制度、

などの意見が出された。

一票の価値

 投票価値の平等は憲法上も要請されていると解されるが、実際には有権者の居住地により、投じる一票の価値に差異が生じている。1人の意見のほうが2人の意見よりも重いのは不合理であることから、逆に2倍以内の格差までは憲法は許容するとも解されているが、この問題について、

  • 投票価値の平等は主権者たる国民に常に保障されるべき基本的権利であるにもかかわらず、未だに確保されていないのが実情。投票価値の格差は、都市部のサラリーマン層の声が十分に反映されないなど、国政に大きなゆがみをもたらしてきた、

などの認識が示された。不平等状態が続く原因については、

  • 司法が立法政策の問題とした投票価値の平等については、立法府が積極的に政策実現に努めるべき課題だが、今放棄している状況ではないか、
  • 投票価値の不平等の原因は、国会の不作為と最高裁の違憲審査に対する消極的姿勢が原因、

などの意見が出された。

 最高裁判所は投票価値の平等の違憲判断については慎重な姿勢であり、基本的には立法政策の問題であるとしつつ、衆参両院それぞれの具体的な較差状態について合憲・違憲の判断を示している。この関係では、

  • 衆議院は平成11年判決で2.309倍が、参議院は平成12年判決で4.98倍が合憲とされたが、国民の納得が得られたものとは言い難い、
  • 投票価値の平等については、2倍以内であることが憲法上の要請である、

などの意見が出された。

 選挙制度が法律事項であることから、このような状況の責任の一端は国会にもあるという認識もあり、今後の解決策などについて、

  • 国会や最高裁が消極的な状況で投票価値の格差是正を実現するためには、投票価値平等の憲法への明記や憲法裁判所設置などを議論すべき、

などの意見が出された。

 

 その他、選挙権の性格については、

  • 15条で選挙権を基本的人権として位置付けているが、人権という視点から見たときは、単に選挙する機会を与えるというだけでなく、国民の意思が選挙を通じて国政に反映される機会をできるだけ広く保障することも含むと考える、

 選挙年齢について、

  • 選挙権は18歳以上から認めることも考えるべき、
  • 地方・中央とも、18歳選挙権の実現は、青年の権利と自立、日本社会の現実からいっても急がれる。いまや150か国以上が実施し、サミット諸国で実施していないのは日本だけである、

 投票の義務について、

  • 投票率の向上について、政治家が信頼を取り戻す努力をすることが大切であるが、権利と義務の問題として議論する必要もある、

などの意見が出された。

 また、二院制を採用する我が国では、特に両院それぞれの機能を十全に発揮できるような選挙制度の設計が強く求められるが、この関係の議論及び参議院の選挙制度に関する議論は、別項[二院制と参議院の在り方]に譲る。

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